現代ミステリーの潮流を読む。
このページはKeiがうだうだと勝手に日本の現代ミステリの流れについて考察している(別名わめている)ページです。

●特徴1 社会派やハードボイルドの台頭 90年代前半から2000年ぐらいまで

鯨統一郎が『ミステリアス学園』の中で「90年代は宮部みゆきの時代だった」と語っているが、
まさにそうだった。宮部ほど、賞をかっさらい話題を独占した作家もいない。
納税ランキングの作家編では著作数でははるかに上回る西村京太郎に一位こそは譲っているが、
同じく著作数で圧倒的な差を誇る赤川次郎をとうとう抜いてしまった。
初期の宮部みゆきはユーモア・ミステリを書く人だったと言ってどれぐらいの人が信じるか怪しいぐらい(*1)、
『魔術をささやく』以降骨太の社会派ミステリを量産して人気を博してしまった。
その究極が『火車』で、『魔術はささやく』ではユーモアミステリの名残りのような物も見られたが、
カード破産を描いた『火車』は展開はシリアスそのものとなっている*2。
その他では、高村薫『マークスの山』や乃南アサ『凍える牙』といった直木賞を取った作品もあり、
ベストセラーにもなっている。
しかし、宮部みゆきブームも『模倣犯』以来下火に向かいつつあり、21世紀に入り社会派には落ちぶれ気味の
印象が強い。原因としては、日本推理サスペンス大賞がなくなったこと(*3)や、ここ数年の江戸川乱歩賞の不調が
上げられるだろう。不景気な時代柄、話題はそこらへんに転がっていると思うのだが、
読者が不景気だから現実離れをした小説を求めているのかもしれない。

*1…嘘と思うなら、『我らが隣人の犯罪』を是非とも読んでみてください。
*2…ユーモアっぽいところもないことはないけど
*3…直系の子孫では、ホラーサスペンス大賞があるが、社会派ミステリが出るとは考えにくい。

●特徴2 ジャンル、ジェンダーのナンセンス化 90年代後半から現代

大型書店に行くと、未だに文芸作品・ミステリー・SFなどとジャンルごとに分けておいてある(*1)
ところが多い。また、他の中規模書店では男性、女性作家で並べてある所が多い。
しかし、ここ数年ジャンル分けやジェンダーで作家を振り分けるのには無理が出てきた印象がある。
高村薫(再び出場)の『李歐』はどう考えたってミステリではないが、高村薫がミステリ作家である以上ミステリの書棚
に置くのが普通なのだが(*2)、これでは文芸作品読者の目にはとまらない。その他には、恩田陸や乙一、舞城王太郎
なんかも何処に置いたら迷うような作品を出しているのだが、未だに書店はジャンル分けで置いている。
本当に書店員は粗筋ぐらい見て置いてるんですかね…。
ジャンルのナンセンス化はしばらく続くと思われ、明らかにミステリとかSFとかいう作品は減ってくるとだろう。
違うジャンル同士のフュージョンは決して悪い事ではないし、ある程度そのジャンルにコアな部分
(ミステリで言えば新本格)が残るならば大賛成だし、いい傾向だと思う。
原因としては作家に量産を強いる編集者があると思うのだが、それが逆にこういういい結果をもたらす場合
もあるのだから不思議な話だ。(でも、作家にはやっぱり量よりも質で勝負して欲しいなー)

*1…勿論、違うわけ方をしている所もありますが。
*2…ただし、『李歐』は運のいいことに文庫書き下ろしだった

●特徴3 衰退する新本格 1995年あたり以降

新本格と言えば綾辻行人『十角館の殺人』以降、古典ミステリみたいな作風を書くジャンルである。
綾辻行人『十角館の殺人』で、見事なトリックで読者を欺くなど本格ミステリーの再興の
兆しだった。その後、我孫子武丸や有栖川有栖、第二世代の麻耶雄嵩などと発展してきたが、
第1世代が行き詰まり気味という事は否めない。
第二世代はたまに新刊を出したりするが、第一世代は寡作もいいところだ(ただ、歌野昌午だけは孤軍奮闘?)
始祖の綾辻行人はトリックのネタ切れなのか徐々にホラーテイストな作品に移行していき、
我孫子はホラーに飽きたらゲームに嵌り、有栖川有栖は一人で作品を乱発し評価を下げていき、
法月は自分で提唱した後期クイーン問題で自滅していった。現在では、有栖川有栖が無駄な抵抗をやるだけで、
ほとんど絶滅寸前のジャンルに成り下がっていた。
原因は至って不明なのだが、一度落ちぶれたジャンルなだけに同じ道を進むのではないかと不安でもある。
本来、本格の新人発掘が目的だった鮎川哲也賞は低迷が続き、成功した新本格作家は第一回の芦辺拓ぐらい
しかいないような気もする(*1)。現状では、メフィスト賞出の新本格作家が数人書いているだけ(*2)で
どうかして欲しい物である。上のパラグラフで述べたジャンルの融合化が進む現代ではそのジャンルのコアの
部分が重要になるわけで頑張って欲しい。

*1…強いて言えば、近藤史恵。と、0回受賞者の今邑彩。新本格じゃないけど、貫井徳郎や加納朋子がこれで
  デビューしたことを踏まえれば決して悪い賞ではない。
*2…個人的には氷川透なんかが好きなのだが。売れないのは、冗談がわかりにくすぎるからか?

●特徴4 転換を迫られる日常派 2000年以降

新本格が誕生した、数年後に北村薫『空飛ぶ馬』が発表され、日本における日常ミステリが
始まった。しかし、それ以降に出た作家の中では成功したのは加納朋子ぐらいしかいない。
他にも、若竹七海を筆頭として何人か上げれないことはないのだが、その大部分が
他のジャンルが主体か無名かなどちらかで実際はこの二人しかいないようなものだ。
ところが、北村薫は「日常ミステリは駄目だ」だの何だのよくわからないことを言って
エッセイばかり書いてるし、加納朋子はここ数年行き詰まり気味だが根気よく書き綴っているのはすごいが、
あとが続かない。原因としては北村薫も述べているように「書くのが難しすぎる」が上げられるようだ。
説明を加えておくと、日常派というのは都筑パズラーと同系譜上に上げられるだろう(*1)。
ところが、日常派は都筑パズラーよりもはるかに制限が多い。日常ミステリでは動機の部分がクローズアップ
されるために、動機を疎かに出来ない上に必ず動機に綺麗なストーリーを配置する必要性があり、
作品中の雰囲気、“謎”の内容が些細なことであること、などとやたらと制限が多い(*2)。
北村薫が「書くのが難しすぎる」と言ったのは当然の結論であって、なかなか新しい書き手も生まれない。
どうか、ならないものだろうか。
(どうでもいいが、北村作品の論理性の薄さはどうかならないものか?特に、覆面作家なんか知識の問題が多く、
少々酷な言い方をさせて貰えば「六枚のとんかつ」と同等と言える位だ。ファンなだけに頑張って欲しい)

*1…完全な個人的な意見。同様な意見を私は今まで見たこと無いので、違うかもしれない。
*2…う〜ん。多いのだろうか?社会派の方が制限多すぎるような気がするけどなあ…。

●特徴5 恐るべしメフィスト賞 1995年以降

メフィスト賞というのは、まさに第一回受賞者・森博嗣の為に作られた(?)賞。なお、0回受賞者は公式に京極夏彦らしい。
実態は、持ち込み原稿の為に雑誌の名前を冠した賞を作っただけ、という非情にお粗末な賞。
が、メフィスト賞というのの真価が出たのは第二、三回だった。第二回・清涼院流水『コズミック』。これは、
「一年に1200人を密室で殺すという予告状を出し、予告状どおり一日3、4人づつ密室で死んでいく」という
奇想天外な小説(*1)。第三回が『六枚のとんかつ』(*2)と、滅茶苦茶。
それから、少々並な作家が続く(*3)。再び、メフィスト賞が躍動しだすのは舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新の登場。
が、何かと並べられる事の多いこの三人だが、舞城と佐藤の間に線をひくのか、佐藤と西尾の間に線をひくのかは微妙(*4)。
作風で言うならば、《奈津川サーガ》の舞城王太郎と《鏡家サーガ》の佐藤友哉にわけるべきかもしれいんが、
雰囲気で言うならば、舞城が特殊(*5)。あるいは、作中に出てくるサブカルチャー的も舞城が年齢のせいか違う。
ただ、一つだけ言うならば彼らは若い。舞城も流水は1970年代生まれ、西尾維新や佐藤友哉の至っては1980年生まれ。
この面子に是非とも、乙一(1978年生まれ)を加えたいところだが、メフィスト賞を取ってないので取り上げないが、
乙一も佐藤友哉系(デビューの順番から言えば佐藤友哉が乙一系だけど)だから、この項目に入ってくる。
いわば、これからのミステリを担う人材と言うべきなのだが、作者には妙な危惧がある。
この流れ(以後『ネオ新本格』©大森望)が主流派になる可能性は否定できず、いくらなんでもこの流れが
主流派になるのは抵抗があるし、新本格(古典復興の意味での)や社会派も是非とも読みたいのだが、
現状では誰もいない。1970年うまれ以降のミステリ作家は…、伊坂幸太郎と本多孝好ぐらいしかいない(*6)。
この流れがミステリ回を斡旋する勢いで伸びてくるのは、是非とも防ぎたい所(*7)。
社会派、本格派の新人が出てくるのを期待するより他は無い。

*1…清涼院流水の小説を《流水大説》というらしい。理由は普通の本より大きいかららしい。
  でも、何が大きいのだろうなあ?本の厚さかな…。
*2…笠井潔に「単なるゴミである」と言われた事は有名である。
*3…乾くるみ以外ね。高田崇史もメフィスト賞全体からみればかなり並。
*4…JDCトリビュートなら、佐藤友哉が抜け物。この三人を並べたのが間違えかも。
*5…まあ、舞城の文章は誰と比べても特殊ですが。
*6…しかも、二人とも1971年!とても、佐藤や西尾にはかてません。
*7…別にメフィスト賞や舞城王太郎を全否定しているわけではない。彼らの小説が、今までなかった新しい形だから
  支持しているからであって、異端派でいてくれれば全然OKです。
    
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