*prologue* 大学に行く途中だった彼女は思わず顔を見上げた。 商店街の真ん中に目の前には大きなクリスマスツリーが立っていた。あわや、アーケードに届こうかという高さだ。 きちんと、上には星がのっけてあるし、箱や靴下なんかも吊るしてある。 ふと、すぐそこに靴下を吊るしてあるのが見えた。届くかな――と思って手を伸ばしても届かなかった。 ジャンプすると、ようやく靴底の部分に触れた。 女子としては大柄な1メートル65センチの身長が珍しく役に立った日だった。 ふと、帰りに反対側から見るともっと低い位置に靴下があるのを見て何となくがっかりしてしまった。 *quiz* ♪Silent Night Holy Night 「マスター、何で日本人はクリスマスは十二月二十四日にやりたがるんですかね?」 彼がカウンター越しに急に、声を掛けてきた。 彼は、この近くの大学の学生で、ミステリ研に――正確には名前が違った気がするが ――所属してるらしい。私もミステリファンなだけあって、時々ミステリ談義に花が咲く。名前は、たしか早坂聖と言ったはずだ。 「どうしたんだい、急に?」 こちらは、コーヒーを作ってる最中。最も、ここはさほど本格コーヒーに拘っているわけではないのだが。 「だって、日本人はイブに盛り上がって、二十五日なったらみんなクリスマスなんてこと綺麗さっぱりに忘れてません?」 「まあ、日本は正月準備があるから仕方ないから仕方ないんじゃない?年賀状だって、さっさ出さないと元日に届かないしさ」 私は、コーヒーを彼の前に置きながら言った。 「あっ、やばい。年賀状書かなくちゃ。実家帰るの二十七日なんすよね…。俺、パソコンあるけど、プリンタ持ってないんですよ」 「学校にないのかい?」 彼は一応、コンピュータ系の学科ではないが理系である。 「学校?学校の一回試したんですけどね。学校のぼろくてUSBケーブルのジャックがないんですよね。とか言って、 俺のノーパ、USBしか付いてなんですよ。そもそも、あのぼろさじゃ解像度は怪しいですけどね」 パソコンでやっと表計算ソフトを使えるようになった私程度では、コンピュータ用語は暗号としか思えない。 それを素早く察したらしい彼は、話題を振ってきた。 「そういえば、マスター、クリスマスの謎解きやってみません?」 いたずらっ子がやるような表情を見せて、彼は言った。 「謎解きかい?」 彼は今まで幾度となくヘンテコな謎を持ち込んできては解かせようといた前科があるのだ。 「『このクリスマスツリーは高すぎる。他のところにしよう』って、言葉からどのように推理が立つと思います?」 *approach* 「まるで『九マイルは遠すぎる』みたいじゃないか」 私は本腰を入れて聞こうと、彼の正面に体をもっていった。どうせ、他の客は閑古鳥がしかいない。 「そうなんですけどね。ええ。うちの部員の平山がですね…、平山って知ってます?」 「早坂君が一度連れてきた、あの落ち着きのない子かい?」 身も蓋もない言い方に彼は少し笑ったようだったが、続けた。 「そう。あの平山が商店街の中で聞いたそうなんですよ。そういう声を。 慌てて、そちらの方向を振り向くとデブとノッポな二人組みがいた」 「『デブとノッポの国』の入り口の門番みたいだね」 この間、子供にその本を読んであげたばかりなのだ。一応解説しておくと、デブの国とノッポの国が真ん中の浮かんでいる島 の名前を巡って戦争するという物語。いつも思う事だが、児童文学というのは世界を風刺している。 「なんですか?それは」 「いや、なんでもない」 知らなかったのも、無理はないだろう。 「で、そのデブとノッポの二人組みのうちノッポの方が言ったそうです」 そこで、彼は一旦切り続けた。 「場所は、商店街のクリスマスツリーの前だそうです。ほら、あそこに馬鹿でかいクリスマスツリーが立ってるじゃないですか」 「ああ、そうだね」 「そう言えば、今年はどうかしたんですか?例年は、あんな馬鹿でかいクリスマスツリーなんて立ってないじゃないですか」 私のこの喫茶店も、商店街連合に所属している。確かに、去年まで馬鹿でかいクリスマスツリーはおろかクリスマスソングすら 掛かってなかった。 「まあ、あれは金づるが出来たからね」 どうでもいいが、市が実行している駅前の再開発計画に組み込まれて、助成金が出ただけなのだが、説明するのが面倒なので適当に流す。 「ふーん。それは、ともかく服装が二人とも随分とおかしかったそうです。 デブの方は風邪をひいているのか普通のマスクをしていたそうです。それに、咳きもしていたって話ですし。 でも、そのくせ黒いコートをきらずに手にもっていたそうです。ね、この時点でおかしいと思うでしょ? それに対して、ノッポは12月の日差しも強くない日に、サングラスは掛けていたそうです。 しかし、こちらは同じような黒いコートは着ていたそうですが、手袋までしていた」 そこで、彼はコーヒーに口をつけた。 「そこで、平山の問題編は終わり。これだけで、どう推理しろっていうんだよ」 ようやく、彼の訪問の意図が読み取れた。問題を出されて、自分ではどうしようもないから他人に聞きに来たわけだ。 いつも通りとは言え、なんともいいがたい。 「一つ、聞いていいかい?」 私は、ふと浮かんだ疑問を口に出した。 「別に、構いませんよ」 「それ、いつの話だい?」 「えーと、昨日の昼頃って言ってましたっけ」 昨日ということは、今日が天皇誕生日だから二十二日となる。 「ノッポの方はマスクはしてなかったんだよね?」 「そうみたいですね」 「それと、反対にデブはサングラスはしてなかったんだよね?」 「ええ」 「つまり、アベコベコンビってとこだな」 私は、思わず考え込んだ。 ふと気付くと、彼は喫茶店に置いてある紙に、何か書き付けていた。 「こんな、感じですかね?」
*TRICK & MISTAKE* 「で、早坂君はどういう推理をたてたんだい?」 私は駄目もとで聞いてみた。 「僕ですか!?」 まさか、自分に来るとは思っていなかったらしい。が、しばらく考え込むとやけに自信なさげに答え出した。 「今、マスターの話を聞いて思いついたんですけど…、これは言葉のトリックじゃないかなーと」 「トリック?Kが逆さまになってる奴じゃなくてかい?」 完全に、『九マイル』の連想から頭がロジックの方向に言っていた私自身言っていたのでかなり意外だった。 「ええ、Kが逆さまになってるのじゃなくて、言葉のトリックだと思ったんですよ。 あんなに高いクリスマスツリーの前でクリスマスツリーは『高すぎる』と言ったら、誰だって値段が高いの方じゃなくて、 高さが高いの方を連想するでしょう?」 「そうだろうね」 私も瞬時にそう訳した。 「そこにミソがあったと思うんですよ。あれだけ高さが高いクリスマスツリーなら値段も高い」 「だろうね」 といっても、商店街連合の会議に滅多にでない私は、あれがいくらかは知らない。 「ならこう考えたわけです。余計な財政負担を強いられれたこの商店街の商店主の二人が雑談していた、何てどうですか?」 「『他の所にしよう』という言葉はどうやって、解釈するんだい?」 「だから、この商店街は駄目だ。ほかの商店街に移ろう、という意味だと…」 と、いいつつ本人が自信なさそうだ。いつもは、大抵自信満々なのだが。 「あの奇妙な服装は?」 「職業柄という、所じゃないですかね…。デブのほうは、食品関係の仕事をやっているんじゃないですかね。多分、この商店街 食品作っているのはパン屋とラーメン屋ぐらいですよね?だから、マスクを掛けていたし、デブになってしまった。 まあ、かなりこじつけですけど。 ノッポのほうは、写真屋でもやってるんじゃないですかね。ストロボ撮影の時に、眩しいからってサングラスを掛けていたとか…」 即興で思いついた割には、なかなか凄い。が、この推理を破ってあげなければならない。 「何で、風邪気味だったのに、デブはコートを着てないんだい?」 「えっ!?それは…。工場の中にいたからですかね。工場の中って機械とかが動いていて結構暖かいじゃないですか」 彼は、さらに自信なさげになった。 「まずさあ、この商店街。食品工場って、パン屋とラーメン屋しかないって言っただろう?パンっていつ作るかしってるかい?」 「…朝方でしょうね」 NHKの朝の連ドラを見ていれば自ずとわかることなのだろう。最も、学生がそんな早い時間に起きているかは不可思議であるが。 「そんな彼が、今の今まで暖かい工場の中にいたとは思えない。ラーメン屋は論外だろうね。昼頃は、一番の書き入れ時だ。 そんな時に、のんびりと外を散歩しているとは思えない。さらに言えば、食品を作っているような所のマスクはまた特別な ものだしね。それに、早坂君の推理には根本的に大きな間違いがある」 「なんですか、それは」 「あれは、商店街の金で作られたものじゃないんだ。だから、商店主は一銭も寄付してない」 「えっ!?」 「しかも、市から再開発計画の一巻として特別に助成金が降りたもので、しかも、駅前再開発委員会とやらから、 特別のイベントに使えって、言われてるんだから。商店主の出る幕ではないんだ」 商店街連合の会合に滅多にでない私だが、会合の事後報告だけは全件に配られる為、知っていた。 「だいたい、何で写真屋がサングラスを掛けるんだい?ストロボ撮影で被写体になるなら眩しいだろうけど、 取る方が眩しい分けないじゃないか。だいたい、サングラス掛けてたらファインダーが見えずらいだろう?」 彼はとうとう完全に黙ってしまった。 「そもそも、やっぱり寒い屋外に出たら風邪気味なら普通、今まで暖かい所にいたらなおさら急に寒くなるから コートをきると思うけどね」 彼は、コーヒーが苦かったのか、それとも苦笑いしたのか顔をしかめた。 *coffee break* チリンチリン―― この閑古鳥が大盛況の喫茶店にお客さんが珍しく来店したようだ。 二人は、同時に入り口の方を向いた。そこには、見事に頭が禿げ上がった商店街連合の会長が何やら紙を持って突っ立っていた。 「どうも、いつもいつもすいません」 頭を下げながらマスターはカウンターから出て、会長の所まで出向いた。 「いやー、いつにもまして繁盛してますな」 「お陰さまで」 明らかに、厭味かお世辞だがマスターはさらっと流した。さほどコーヒーが美味しいわけでもないこの喫茶店に集まる数少ない 学生たちは、やはりこのマスターの人柄に惹かれたのかもしれない。最も、惹かれる人間自体少ないから、いつもガラガラなんだろうが。 「マスター、これよろしく。警察から、これをすべての商店に配れって言われてね、面倒であらしない。せっかく、防犯カメラまで 付けたっていうのに。 ともかく、これを読んどけって話だから。ええ、最近物騒な事件が起きたばっかだしさ。じゃあ、そういうことで」 かなり乱暴な日本語を言いながら、そそくさと会長は出て行った。 聖が、マスターの手許を除くと、そこには『商店主の防犯マニュアル』と書かれた紙があった。 金庫の管理は云々だの、レジは云々だのが延々と書いてあって、とても見る気は失せそうだ。 「今更、何を配ってるんだろうな」 と、呟きマスターは店の隅のゴミ箱に捨てた。その瞬間、マスタ―の目に光が灯った気がした。 *logic & answer* 「うーん、まずキーポイントになるのは、この奇妙な服装だと思うね」 元ダイエー(南海だったっけ?)の藤本博史似(マイナーかつローカルかな?)のマスターは唐突に語りだした。 「随分、夢がないですね。『九マイル』みたいに言葉から推理していかないと」 聖が冗談交じりに言ってみたが、マスターは真面目に受け答えた。 「それでもいいよ。重要なキーポイントもココにあると思うね。重要なのはノッポがデブに言っているという点だと思う。 まず、言葉の意味から確認していこう。この「高い」はexpensiveの意味じゃなくて、highの意味である。ここが推理できると思う。 何故なら…」 マスターは随分と意気揚揚に言ってのけた。が、訂正してやらなければならない。 「マスター、値段が高いってexpensiveじゃなくて、high priceを使うんですよ」 「へー、そうなんだ。覚えとくよ。で、ノッポがわざわざデブに言ってるということは、デブには絶対出来ないことなんだ。 でも、ノッポには出来るかもしれない、とそのデブは思ったわけだ。 つまり、デブがneverで、ノッポがperhapsなわけだ」 「マスター、その間違えだらけの英語言わなくていいよ。デブが0%、ノッポが40%ぐらい出来るってことでしょ?」 いつの間にか、二人ともデブとノッポが固有名詞と化している。 「まあね。デブからそういわれたノッポは高すぎるせいで『出来ない』と判断した。だから、 『このクリスマスツリーは高すぎる。他のところにしよう』といったわけだ」 「随分説得力ないですね」 聖は呑気に二杯目のコーヒーをすすりながら言った。 「だろうね。重要なのはココからなんだ。ノッポがわざわざ高すぎて出来ないというんだから、ノッポの背より高いところに 用があるんだろう。さあて、ノッポの背より高いところに一体何があったのだろうか?」 「クリスマスツリーですか?」 確かに、二人はクリスマスツリーの近くに立っていた。 「そうだね。さあ、ここから別方面から推理してみたいと思う」 「別方面?」 もう少しで、謎が解けるというところで推理小説を取られるのと等しいようなことをやってくれる。 「そう。本当は、ここから始めたかったんだけどね。 二人のいでたちのなかので一番奇妙なのはどこだと思う?」 「サングラス?」 「この時期、サングラスと言えば奇妙ではあるね。まるで、銀行強盗だね」 そこで、何故か知らないがマスターはニヤリとした。 「でも、銀行強盗ならマスクも付けとかないとねいけませんよ。それに、デブがサングラスも 手袋していなかったってのも絶対おかしいですよ」 絶対に、銀行強盗は最低でも手袋とサングラスぐらいはしているだろう。 「いいとこに気付いたね。だけど、肝心なのはそれでない。そっちの方の推理に行っていいかい?」 マスター自薦のアップルパイが熱くて、言葉が出せなかった聖は無言で頷いた。 「二人の服装で、一番妙なのは『風邪をひいていたのに、コートを着ていない』だと思うよ。明らかに、相反しているから。 ならば、ここが最大のキーになるんじゃないか?と思ったわけなんだ。さあ、コートを脱ぐ理由として考えられるような場合は どういう場合だと思うかい?」 この髭面マスターも、結構のってきているらしい。 「ええと、暑いってことですか?」 熱いアップルパイに苦戦していた聖は答えた。 「それが、一番多い理由だろうね。でも、寒くて着ておきたいのに着れない、というのはどういうパターンだろうか?」 「ええーと、服が汚れたとか破れたとか…」 「そうだね。よく、書道の時間なんかに服を汚してしまったなんてことがよくあったね」 それは、マスターが下手だっただけではないか、という大いなる疑問を抱いたが心の中にとめておく。 「で、服が汚れたんですか破れたんですか?」 「多分、汚れたんだと思う。破れても、そんなに黒なら目立たないだろうし、目立つほど破れたならば手に持っていても わかるだろうしね。 だから、服が汚れてしまったんだと思う。で汚れてしまって、脱いだんだ。でも、黒いコートが汚れるってどんな場合だろうか?」 「少なくとも、墨じゃないですね。あとは…、ペンキぐらいですか?ペンキ塗りたてに座ってしまったとか…」 「いい感じになってきたね。さあ、ココらへんでまた別の検証に写ろうか。重要な事がある。二人ともてんでバラバラに見えるけど、 重要な共通点がある」 「なんか、ありますか?二人とも、コートを持っているとか?」 こうも、推理展開を変えるような探偵が他にいただろうか?普通、探偵は一つの答えから結論にたどり着いて、 他の手がかりは証拠固めとして使われるのではないかという疑問もあるが、仕方なくマスターに応じる。 「この時期には珍しくないだろうね。二人の共通点は、人間だったとか、日本人だったとかと同じぐらいナンセンスだね。 ならば、何か。一般人とは違って、彼ら二人だけの共通点だ。それは、二人とも“顔を隠している”という所だと思う」 「つまり、顔を隠さなければいけない理由があった」 「ひとえに言えば?」 「犯罪者?」 「そうだね。二人は、犯罪者だろう。監視カメラを設置してある商店街では素顔を見せるわけにはいかない。 しかし、ここでデブの方に重要な要素が欠けている気がしないかい?」 「サングラスも手袋も付けていない、ということですか?」 「そうさ。相棒はサングラスと手袋をしているんだ。片方だけ、しないというのはやはりおかしい」 「ノッポは逆にマスクを付けてないですよね?」 「そう。ペンキ塗りたてか何かの為に汚れのせいで、デブのコート、手袋、サングラス、マスクは全て駄目になってしまったんだ」 ここにきて初めて、マスターは断定口調になった。 「えっ?でも、デブはマスクかけてますよ」 「仕方がないからと言って、素顔をさらすわけにはいかない。警察なんかに、追跡されてなくてもあとから、 監視カメラを追跡すればわかるからね。だから、ノッポは応急策としてデブに自分のマスクをやったんだ。 これで、一応は二人とも顔は隠れた」 ここで、マスターは息を深くついた。 「さあ、犯罪者が呑気にペンキ塗りたてに座るとは思えない。ならば、デブのマスク、コート、手袋、サングラスは何故汚れたのだろうか?」 「ひょっとして、血?」 「だとすると、相棒のノッポが汚れてないのはおかしいだろね。ノッポが単なる共犯者だったとしても、殺人犯が マスク、サングラスいるか?」 「世間一般のイメージはそうですけど…」 「それは、世間一般のイメージだろ?実際、相手を殺すなら顔見られてもいいわけだし。大体、血ぐらい固まる前ならサングラスに付いた程度は取れるだろう」 人を殺した事はないので、わからないがきっとそうなのだろう。 「なら、なんですか?」 「サングラスに付着しても取れないものさ。わからないかい?」 「ボンド?」 「犯罪者が使うとは思えないね…。わからないかな…。答えは、カラーボールだよ」 「カラーボールって、あれですか?銀行強盗とかに投げる…」 「そうそう。多分、職員が投げたカラーボールがデブの肩にでも当たったんだろうね。まあ、デブのほうが足遅そうだし、 当てやすかったんだろう。それが、破裂してマスクやサングラスに飛び火した。まあ、コートは一発でアウトだろうね。 手袋は、飛んだのが当たったのかもしれないし、何かの拍子に付いたのかもね。 早坂君は、まるで銀行強盗だって僕が言ったとき、君は否定しただろう。でも、その否定材料は全部覆したでしょ?」 マスターはニコニコ笑顔だ。まるで、子供みたいだ。この店の数少ない常連客に、女性が多いのはそのせいかも知れない。 「ええ、まあ」 確かに、聖はその時「ノッポがマスクをつけていないのはおかしいし、デブがサングラスと手袋をつけていないのはおかしい」と 言ったが、その材料は全て覆されている。 「じゃあ、例の言葉の検証に行こうか。その銀行強盗の二人は、一体クリスマスツリーの何に届かなかったのだろうか? ここで、重要なのは強盗の気持ちになってみることだ」 「なりたくないですね」 アップルパイを片付けた聖は一言で片付けた。 「まあ、そうだけ…」 とマスターは笑った。 「強盗は今一番何を欲しているだろうか?」 「さあ。強盗はやったことないからわかりませんね」 「本当かい?子供の頃、隣の子供からおもちゃ取り上げたりしてなかった?」 マスターは急に面白がるように言った。 「してません」 聖は、やや語気を荒くしていった。 「まあ、それは信じるとして。強盗は一番何を欲しているか。お金の隠し場所だろう。ガキ大将が、子供から取り上げたおもちゃを 取り上げた際一番困るのが、どうやって母親に見つからずに隠すか、と同じ論理さ。強盗とガキ大将は大して変わらないってわけだ」 マスターは妙な締めくくり方をして続けた。 「おそらく、いち早く非常線をひいたである警察の網もくぐるのは大変だ。ココらへんに一旦隠しておきたい。 そこに、お誂え向きのものがクリスマスツリーに釣り下がっていた。それは、一体何か?」 「箱ですか?」 「ああいうところにぶら下がっている箱は、開かないだろうからね。ならば、何か。多分、靴下だろうね。靴下は中空洞の上に、 上がポッカリ空いている。アーケードの中に立っているから雨の心配もいらない。金の隠し場所としては最適じゃないかい? 多分、ノッポが丁度背が届くか届かないかあたりに靴下が飾ってあった。そこの中に入れたらいいんじゃないか、とデブは考えて、 ノッポに言った。でも、ノッポはギリギリ背が届かないから駄目だ、と言った、というところが真相じゃないかな」 「時系列順に並べると、まずノッポとデブはマスク、サングラス、手袋、コートを完全にきた状態で銀行に押し入った。 そこで、金を巻き上げたデブとノッポは、逃走した。それで、急いで追いかけた職員はデブの肩にカラーボールをぶつけた。 それが破裂して、デブのコートやサングラス、手袋、マスクなどに付いてしまった。それで、デブは全部脱いでしまった。 しかし、それでは素顔が丸見えになってしまう。仕方がないので、ノッポは応急策としてマスクを貸す事にした。 それで、商店街方面に逃げてきた二人は、警察の非常線を警戒して、一旦お金を置く事にした。 そこで、デブが、靴下の中に隠してみたらどうかと言ってみたら、ノッポが駄目と言って、他の所に隠した…、ってとこですか?」 「多分ね」 マスターはニッコリ笑って言った。 *epilogue* その喫茶店からの帰り道、ふと交番の前を通るとある壁紙を見かけた。 「二十二日、○○銀行××支店で発生した銀行強盗事件で、警察は情報を求めています。 犯人の様相は、身長180センチぐらいと160センチぐらいの2人組で、二人とも痩せ方。黒っぽいジャンパーのようなものを…云々」 本当に銀行強盗はあったらしい…、って本当にマスターは最初から銀行強盗があった事を知ってて言ってるのではないだろうか? などと、余計な事を考えていると、ある文句に気付いた。って、二人とも“痩せ方”!? まさか、同じ日に二件の強盗事件が発生したのではないだろうか、と思い翌日訪れた例の喫茶店のマスターにそのことを告げた。 「ああ、なら簡単じゃないか。つまりさあ、160センチの痩せ型の奴がデブに見えたのは服の中に、 アタッシュケースでも入れてたからだろうね。勿論、銀行から盗んだのをね」 これまた、あっけなく片付けてしまった。 「ところで、早坂君。一ついいことを教えてあげようか?あの、クリスマスツリーは二十四日、つまり今日までなんだ」 「何で、今日までなんですか?今日はイブですよ。本当は、明日がクリスマスですよ」 昨日からずっと主張していることを聖は言ってみた。 「さあね。それは、市のお偉がたの考えることだからね。 ところで、クリスマスツリーの前で張り込みでもしてみたらどうだい?どうせ、クリスマスツリー付近に隠してるだろうしね。 昨日見に行ってみたら、たかさが2メートルぐらいのところに靴下があったけど、それの反対側にもっと低いところに下げてあったよ。 まあ、ネコババしちゃうってのも、面白いけど。その時は、この店にも寄付してくれよ」 呑気にコーヒーを注ぎながら、随分と物騒な事を言う。腰を浮かせた聖に、マスターが聞いた。 「張り込みするかい?」 「ええ、犯人を捕まえる為に」 「相変わらずの正義感だね。でも、夜中遅くに取りに来ると思うけど」 「ええ、構いませんよ」 「一つ聞いていいかい」 マスターは本当に子供ような笑顔を浮かべて聞いた。 「何ですか?」 「去年、付き合ってた彼女とはいつ別れたんだい?」 「何で、そんなこと知ってるんですか!?」 たしかに、彼女とは3ヶ月ぐらい前に別れた。 「推理だよ」 マスターはにっこり笑って言った。 |
Merry Christmas! |
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